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2024-04-05更新
働き方改革推進支援助成金とは?2023年度の概要や申請時の注意点を解説
2023/08/23
「働き方改革推進支援助成金」は、1人でも従業員を雇用している事業者であれば、職場環境の改善などに取り組むことで助成金を受けられる可能性があります。従業員20人以下の中小企業や個人事業主など、いわゆるスモールビジネス事業者でも申請できるのです。
この記事では、働き方改革推進支援助成金の2023年度の制度概要や特徴、支給対象・支給額のほか、申請時の注意点などをわかりやすく解説します。
働き方改革推進支援助成金とは、中小企業が職場環境の改善や有給休暇取得を促進させるといった働き方改革に取り組む際、その環境整備に必要な費用の一部を助成する助成金制度です。
最大の目的は「生産性の向上」であり、そこにつながる取り組みに対して、かかった費用の一部が助成されます。
働き方改革推進支援助成金を受給することによって、自社の職場環境が改善でき、従業員にとって「安心安全な職場」と認識されるようになれば、人材定着率が高まるメリットがあります。また、従業員の満足度が高い職場には、新たな人材が集まりやすいともいえるでしょう。
少子高齢化による人口減少が進み、現在は多くの事業者が人手不足に悩まされています。しかし、働き方改革推進支援助成金を使って働き方改革に取り組むことで、安定的な人材確保による事業成長・継続が実現するのです。
働き方改革推進支援助成金は、自社の状況に合う働き方改革に取り組めるのが特徴です。助成金は目的別に5つのコースに分かれています。
また、働き方改革推進支援助成金は、労働時間の管理を目的としている助成金です。計画を立て、目標を定めたうえで申請し、採択後に計画を実施して目標を達成できたら、それにかかった費用の一部を助成します。
つまり、条件を満たし、必要な手続きをすれば基本的には支給されます。ただし、一律でいくら支給、というのではなく、取り組み内容や成果に応じて支給額が変動するのも特徴です。
従業員約10人のソフト開発会社が「労働時間短縮・年休促進支援コース」を利用し、働き方改革を実現した例をご紹介します。
このソフト開発会社は、それまで時間外労働が多く、有給も取得しにくい状況でした。そこで、社会保険労務士や中小企業診断士など、外部専門家によるコンサルティングを受け、どうすれば改善できるかを相談しました。結果、週に1日はノー残業デーを設ける、年次有給休暇は取得する、仕事をカバーし合うために毎朝、朝礼を行って業務状況を各自が報告する、といった対策をとることにして、就業規則の変更も行ったのです。
その結果、業務が見える化し、社内の協力体制が構築できるようになりました。また、組織の在り方も見直すことができ、事業主の意識も上がりました。労働生産性もアップし、残業の削減、有給休暇も取得できるようになったそうです。
ちなみに、この際にかかった外部専門家のコンサルティング費用は、助成金の支給対象になりました。
2023年度の働き方改革推進支援助成金には、5つのコースが設けられており、それぞれ内容や対象が異なるうえ、取り組みや成果目標もそれぞれにおいて設定されています。
ここでは、働き方改革推進支援助成金のコースを、スモールビジネス事業者にとって関連が深い順にご紹介します。
2023年度の働き方改革推進支援助成金の種類
労働時間短縮・年休促進支援コースは、生産性向上や時間外労働の削減、年次有給休暇・特別休暇の取得促進に向けた環境整備に取り組む中小企業を支援するものです。2020年4月から中小企業に対し、時間外労働の上限規制が適用されていることが背景にあります。
勤務間インターバル導入コースは、従業員の生活時間や睡眠時間を確保して、健康保持や過重労働の防止を図る中小企業を支援するコースです。2019年4月から、勤務終了から次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設けるインターバル制度の導入が努力義務化されたことが、コース設定の理由です。
生産性を向上させ、労務・労働時間の適正管理の推進に取り組む中小企業を支援するのが労働時間適正管理推進コースです。ちなみに、2020年4月から、賃金台帳などの労働管理書類は5年(当面は3年)保存するように延長されています。
適用猶予業種等対応コースは、建設業、運送業、病院等、砂糖製造業などが対象です。このような業種については時間外労働の上限規制適用が猶予されていましたが、2024年4月から適用が始まります。生産性向上や時間外労働の削減、週休2日制の推進のほか、医師の働き方改革への取り組みを支援するコースです。
団体推進コースは事業者に対する助成金ではなく、さまざまな事業者が所属する団体(商工会議所や商工会など)を対象としたコースです。所属事業者が職場環境改善に取り組む場合、その所属団体に対して助成金を支給します。
働き方改革推進支援助成金は、どのような事業者を対象としているのでしょうか。ここでは、スモールビジネス事業者にも取り組みやすい「労働時間短縮・年休促進支援コース」を中心に確認していきます。
働き方改革推進支援助成金の対象になる事業者は、下記を満たす事業者です。
働き方改革推進支援助成金の対象事業者の範囲
業種 | 資本または出資額 | 常時使用する従業員数 |
---|---|---|
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
例えば、小売業(飲食店を含む)の場合、資本または出資額が5,000万円以下、あるいは常時使用する従業員数が50人以下の事業者が対象です。
働き方改革推進支援助成金を受けるには、上記範囲の中小事業者の中で、さらに次のような3つの条件をすべて満たす必要があります。
働き方改革推進支援助成金の対象事業者に求められる条件
「成果目標」は、下記の中から1つ以上を選択します。スモールビジネス事業者にとっては、「成果目標3」が比較的達成しやすいといえるでしょう。
成果目標
端的にいうと、「これから働き方改革において一定の成果を上げるために取り組む事業者」が対象になります。すでに成果目標をすべて達成している事業者は対象外であることに注意してください。
働き方改革推進支援助成金の支給額は、下記のうち、いずれか低い方が支給されます。
働き方改革推進支援助成金の支給額
成果目標1~3については、達成状況に応じて支給額が決まります。
例えば、「労働時間短縮・年休促進支援コース」で、36協定において時間外労働時間数などを月60時間超で設定している事業者(の事業場)が、これを月60時間以下に設定したとしましょう。このときの成果目標1の支給上限額は、下記のとおり、150万円になります。
成果目標1の支給上限額
事業実施前の設定時間外労働+休日労働の合計時間数 | |||
---|---|---|---|
月80時間超で設定 | 月60時間超で設定 | ||
事業実施後の設定時間外労働+休日労働の合計時間数 | 月60時間以下に設定 | 上限200万円を支給 | 上限150万円を支給 |
月60時間超月80時間以下に設定 | 上限100万円を支給 | - |
また、成果目標2・成果目標3の支給上限額は、25万円です。
さらに、「指定した従業員の時間あたりの賃金引上げ」を達成していれば助成金の支給額に加算できます。仮に常時使用する従業員が30人以下で、指定する1~3人の賃金を3%以上引き上げた場合は、30万円が支給額に加算されます。
働き方改革推進支援助成金を受給するには、定められた取り組みの実施が必要です。仮に「労働時間短縮・年休促進支援コース」の支給を受けるには、下記のうちいずれか1つ以上を実施します。
なお、必要な取り組みはコースによって異なりますので、他のコースについては別途確認してください。
労働時間短縮・年休促進支援コースの取り組み
働き方改革推進支援助成金について、申請から助成金を受け取るまでの手順は下記のとおりです。
まずは、申請のための交付申請書や事業実施計画、36協定届、就業規則(の写し)のほか、年次有給休暇管理簿の写し、賃金台帳の写し、見積書といった書類をそろえます。事業終了後、かかった費用や目標の達成度合いに応じて支給申請書を作成し、提出する仕組みです。
働き方改革推進支援助成金の申請方法
いずれのコースも、申請の締め切りは2023年11月30日(木)必着となります。予算の関係で、申請数が多いと予定より早く締め切られる可能性もありますので、早めの申請がおすすめです。
働き方改革推進支援助成金を申請・実施する際には、いくつか気を付けたいことがあります。最後に、働き方改革推進支援助成金の申請・実施時の注意点について解説します。
まずは、「対象事業者に求められる条件」を満たしているのかをチェックしましょう。
該当することがわかったのであれば、成果目標に向けて指定された取り組みの中からどれを実施するのか、慎重に検討してください。
2022年度は「労働時間短縮・年休促進支援コース」が予定より早く締め切られました。2023年度も申請数が多いと、予告なく締め切られる可能性もあるため、早めの提出を心掛けましょう。
提出の際にどのような取り組みを行い、どのような成果の達成を目指すかは、業種や事業者によって変わってきます。その意味では、社会保険労務士などによるコンサルティングを受けて計画を立てる方が安心です。計画の検討にかかる時間を想定すると、申請の2~3か月程度前から動き出すことをおすすめします。
交付が決定し、助成金を受けられそうな見込みが立っても、すぐに助成金が手元に入ってくるわけではありません。助成金が受け取れるのは、取り組みを実施し、成果を達成して、その報告が認められてからです。
したがって、取り組みにかかる費用は事業者が先に負担する必要があります。状況によっては、事前に資金調達をしておきましょう。
労働局への支給申請書の提出は、事業(取り組み)実施予定期間が終了した日から起算して30日後、または2024年2月9日のいずれか早い日までです。ですから、この実施期間は長めにとっておくのが無難です。
働き方改革推進支援助成金は、従業員の時間外労働を減らしたり、従業員に年次有給休暇を取得させたりするなど、職場環境を改善するための助成金であり、職場環境を良くすることで人材確保や事業成長・継続につながるメリットがあります。
ただし、業種や事業規模によっては、働き方改革を行おうとしたところ、労務時間などの管理に抵抗されるといった例もあります。社内の風土を踏まえつつ、じっくりと取り組みましょう。
なお、働き方改革推進支援助成金は2020年度から実施されており、コースの変更などを経て継続されてきました。2024年度以降についてはまだ正式に決まっていませんが、今後も働き方改革を推進するために、調整しながら継続するものと考えられます。
人口減少社会で人手不足が改善する見込みがない今、働き方改革への取り組みは急務です。スモールビジネス事業者の方は、今のうちに働き方改革推進支援助成金を活用した職場環境改善をおすすめします。
補助金・助成金に必要な基礎知識についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
有限会社人事・労務ヘッドESコンサルタント。厚生労働省認定キャリアデベロップメント・アドバイザー。一般社団法人日本ES開発協会代表理事。
福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進中。
スマイルオン内藤社労士事務所代表、特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント。ESコモンズ(有限会社人事・労務主宰)メンバー。
「笑顔で働ける職場づくり」をモットーに就業規則の作成・見直しや人材育成研修等を中心に活動中。また、中小企業の「働き方改革推進支援助成金」に特化し積極的にアドバイスを行っている。
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