資金調達とは?
2022-08-03更新
2022/03/08
第三者割当増資を実施する場合、以下の点について事前に確認・検討をしておきましょう。そのうえで、第三者割当増資を実施するかどうかを決定すると良いでしょう。
まず、定款で「発行可能株式総数」を確認します。発行可能株式総数は、文字通り会社の発行可能な株式の総数です。会社が新株を発行できるのは、定款に定められた発行可能株式総数の範囲内に限られます。
設立後の会社は既に発行済みの株式があるので、発行可能株式総数から既に発行済みの株式数を差し引いた数が、新株として発行できる株数となります。
(新株として発行できる株数)=(発行可能株式総数)-(発行済みの株数)
仮に新株として発行できる株数が不足するような場合には、定款を変更して発行可能株式総数を増加させる必要があります。
次に、定款で「取締役会設置会社の有無」を確認します。第三者割当増資の手続きにおいては、取締役会設置会社と非設置会社で内容が異なる点があります。
第三者割当増資における株式の割当先の決議を行う場合、中小企業に多い全株式譲渡制限会社※のうち、取締役会設置会社では基本的に「取締役会」、非設置会社では「株主総会」で行います。
詳しくは「第三者割当増資の具体的な手続き(1)、募集事項の決定、❶募集株式の数」で解説します。
第三者割当増資を行う場合、株式の割り当て数や新規の発行株式数を決定する必要があります。これらは経営権などに影響するため、重要な決定といえます。具体的には「どのくらい株式を割り当てるのか」「募集株式の金額、それに関する算定方法」の決定を行います。
「株式の割り当て」については、具体的に「何株を新規で発行して、その株式構成比率を何%にするか」「自身の株式構成比を何%にすべきか」の事前の決定が必要です。
例えば現在、発行済株式総数が100株、自身の株式構成比が100%の会社があるとします。この会社が新たに50株の新株を発行すると、発行後の発行済株式総数と株式構成比は以下のようになります。
【発行済株式総数】(現在)100株+(新株発行)50株=150株
【株式構成比】自身の株式:66.7%、新株:33.3%
株式の割り当て数や新規の発行株式数を決定する際に注目すべきことは「経営権」「支配権」「拒否権」の有無です。自身がどの程度の会社経営への影響力を持つのかの戦略によって、第三者に割り当てる株式数が異なってきます。
経営権 議決権のある株式の1/2超 |
支配権 議決権のある株式の2/3超 |
拒否権 1/3超 |
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他にも株主にはさまざまな権利がありますが、詳しくは株主が持つ権利一覧 をご覧ください。
第三者割当増資においては、株価の算定方法を明確にしておく必要があります。具体的には「株価をいくらで募集するのか」「どのような算定方法で算出するのか」を明確にする必要があります。
ここでは、実務的によく使われる代表的な算出方法をご紹介します。
企業が持つ資産・負債を帳簿に基づいて計算する手法です。帳簿上に記載されている資産の合計から、負債の合計を引いた純資産が評価額に当たります。帳簿を基に計算するため、未上場企業の評価額を算定するうえでよく使われます。
将来的に見込まれるキャッシュフローから、リスクの大きさに合わせて設定した割引率(将来的な価値を現在の価値に直すための利子率)により、割り引くことで算出する方法です
資金調達額は「株価×新規発行株式数」で構成されています。目標調達額は企業の目標に合わせて決まりますが、株価がわからなければ発行数を決められません。そのため、株価を算定する必要があります。
詳しくは「第三者割当増資の具体的な手続き(1)、①募集事項の決定、❷募集株式の払込金額またはその算定方法」で解説します。
また、車両などの現金以外の資産を出資する現物出資を認める場合には、内容や金額などを決めておく必要があります。現物出資の対象となるのは、基本的にその会社の財産に値するものとされています。
しかし現物での出資は資金調達にはなりませんし、その査定にも手間がかかります。中小零細企業の場合、現金による出資にしておくと良いでしょう。
第三者割当増資をすることによって、既存株主の株式構成比(既存のその株主の株式数/第三者割当増資後の全体の株式数)が変わり、その株主の議決権に影響を及ぼす可能性があります。
株式会社の意思決定に関する最高機関である「株主総会」において、さまざまな議題を決議する際の議決権は、1株1票となります。そのため「自分が持っている株式の数/発行済株式の総数」(株式持分比率)が重要になるのです。
既存株主にとって自分以外の人に新株が割り当てられてしまうと、分子である「自分が持っている株式の数」は変わらず分母の「発行済み株式の総数」のみが増えることになりますから、持分比率が下がり、増資前より自分の意見が通りづらくなってしまいます。
中小零細企業が実際に第三者割当増資を行う場合、全く関係のない第三者よりも顧客、取引先、付き合いがある金融機関などに割り当てることが一般的です。
なぜなら、一層関係が深まり「取引関係強化・拡大につながる」などが期待できるからです。一方で「決算後に定時株主総会を開催しない」「定期的に報告してこない」など、管理ができていない会社と思われた場合には、信用を失う可能性もあるので注意が必要です。
第三者割当増資において、事業計画は重要です。出資を集め、何に投資し、どのような成果・利益をあげていくかが明確でなければ通常は、なかなか第三者割当増資に応じてもらえません。
株式の引受人は「株式を保有することで配当が欲しい」「販売協力などで関係強化を図り売上拡大をしたい」「何年後かのIPOでキャピタルゲイン(株式を売却することで得られる売買差益)を期待している」など、何らかの期待があるため出資をしてくれるわけです。
事業計画は今後の計画を示すものであるため、引受人は期待に応えるものかどうかの観点から事業計画を見ています。したがって事業計画を信頼してもらうためには、今後の会社・事業の成長性や新規性、その実現可能性が網羅されていなければなりません。
この事業計画は、資金調達額(株価×新規発行株式数)に関係するため「募集株式数・金額と経営権などへの影響の確認」を行うと同時に策定したいところです。
事業計画を策定すると同時に、第三者割当増資における調達資金の事業上の活用と、収益計画について分けて整理しておきましょう。
事業計画策定において調達資金の活用を整理する目的は、第三者割当増資による資金調達を行った結果「資金を何に使い」「いくら儲かるのか」を明確にし、出資を引き受けてくれた株主への説明をするためです。
第三者割当増資を引き受けてもらった新たな株主には、最低でも年に1回、定時株主総会で決算報告をすることになります。その際に投資における費用対効果を示すと、株主も「自分が出した資金がどう使われて、結果どうなったか」がわかり、株主との信頼関係を構築できます。
事業計画策定において収益計画を整理する目的は、自社で費用対効果を管理するためです。「どの程度の事業投資を行い、どのような事業活動を行ったら、どのような結果が得られたか」という費用対効果をつかむことができます。
会社での費用対効果の図り方にはさまざまなものがありますが、代表的なものはROI(Return on investment)でしょう。ROIは、投資した費用からどれくらいの利益・効果が得られたのかを表す指標です。実施した施策の効果を検証する場合などに用いられ、ROIが高いほど収益性が高く、その投資が良いものと言えます。
ROIの計算式は「利益÷投資額×100」となります。利益の範囲や投資額の設定は事業にもよります。投資に対する効果を図る指標として活用し、できれば株主の報告にも入れると良いでしょう。
前述でも触れましたが第三者割当増資を検討する際には、株主構成比について経営者や他の役員、販売協力先、その他第三者などでそれぞれ何%を持っているのかについて、常に考えておきたいところです。
また、今後継続的に第三者割当増資を検討する場合、その先にIPOを見据えているのであれば、資本政策も同時に考えておきましょう。
資本政策は、事業を遂行していくうえで必要な資金調達を実現するための施策をいいます。仮にIPOを目指す会社であれば、上場審査の形式基準を充足させ、上場後の株式の流動性を念頭に置きながら「資金調達」と「株主構成」のバランスを取り、適正な資本規模や発行済株式数へ導きます。
そこまで不要であるという中小・零細企業でも、第三者割当増資を実施する場合は、株主構成比が現在どうなっているのかを常に気にかけることが重要です。
第三者割当増資の引受人としては、以下のような候補が考えられます。
など
中小零細企業でも、例えば、他にはない技術や特許を持つ企業で成長性の高い企業であれば、投資家が出資することもあるかもしれません。しかし通常、中小・零細企業の第三者割当増資では、取引先や経営者の知人・友人・親族、会社の取締役や従業員などが第三者割当増資の引受人となることが一般的です。
この中でシナジー効果が見込めるのは取引先といえますので、引受人候補には、まず取引先を考えてはいかがでしょうか。
例えば何らかの商品を取引先に提供していて、既に実績がある場合を想定します。ここで取引先から第三者割当増資により資金調達して、より多くの商品を提供できる体制を取ることができれば、出資した取引先に対しても一層商品供給がスムーズになり、売上を増やすチャンスが増えると考えられます。
このように仕入・販売などの取引関係にある場合、取引先にも直接的なメリットがありますので、引く受けに応じてくれる可能性が高いのではないでしょうか。
また場合によっては双方で株式を持ち合うなどして、その取引関係を一層強固にするなど、第三者割当増資は単に資金調達だけでなく、取引深耕にも活用できるものと言えるでしょう。
株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等
を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。
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