金融機関との上手な付き合い方(1) ~金融機関と上手に付き合う目的とメリット~

2022/05/30

企業にとって金融機関と上手に付き合うことは、円滑に融資取引できるなど多くのメリットがあります。ここでは、金融機関と上手に付き合う目的とそのメリットについて、詳しく解説していきます。また、複数の金融機関と付き合うメリットなどについても解説します。

企業が金融機関と上手に付き合う目的

企業が金融機関と上手に付き合いたい理由

企業が金融機関と上手に付き合いたい理由は何でしょうか。

企業にとって、金融機関に第一に期待するものは「円滑な融資取引」でしょう。例えば、必要な時に資金調達がスムーズにできて、かつ良い条件(金利や返済期間など)で取引できることです。

資金が不足することは、企業にとって最も大きな問題になりますし、可能なら自社の状況を推測して、早めに金勇機関の側から融資提案してもらえれば、もっと良いですよね。さらに「上手に付き合う」ことで、金融機関が持つ資産(情報や顧客など)を上手に活用でき、金融機関に自社の業績拡大に寄与してもらうことができるのではないでしょうか。

金融機関が持つ資産とは、具体的には金融機関が持っている金融情報や税制などのマクロ情報に始まり、その地域の企業や不動産など地場の情報、融資取引している企業の財務や事業内容の情報です。

金融機関と上手に付き合う目的の一つが「金融機関の持つ情報を活用できる」ことと言えるでしょう。

金融機関の立場や視点

金融機関にはメガバンク、地方銀行、信用金庫、信用組合などがあります。メガバンクは株式企業、信用金庫や信用組合は組合員組織です。

株式企業は営利目的で活動しています。一方、信用金庫は「信用金庫法」、信用組合は「企業等協同組合法」を根拠とする「非営利法人」です。非営利といってもボランティアではなく、組織を維持・拡大するための適正な利益を求めて活動する組織となります。

いずれにしても、金融機関は国の機関ではなく民間企業であると言えます。金融機関の立場からみた「取引したい企業」「望ましい企業」とは、定期的に融資を申し込み、滞りなく返済し、その他の預金取引などもしてくれる企業と言えます。さらに、企業の代表者や従業員などが取引してくれれば、なお良いでしょう。

また企業と取引するうえでの金融機関は、実績を重視し、数字で示されるものを信頼しますが、数字でしか判断を行わない組織ということではありません。金融機関の視点が「実績・数字」を重視する理由は、特に「融資」という業務が影響するからです。

その点を踏まえて、銀行員などの金融機関職員(担当者)との上手な付き合い方を考えることで、企業は単に融資取引だけでなく、情報の提供や取引先の紹介など、金融機関の持つさまざまなサービス提供を受ける機会があるはずです。

金融機関との付き合いが下手だと損をする

金融機関の担当者は基本的に「真面目」な人が多いので、付き合い方が下手でも融資手続きなどで大きな問題はありません。

しかし、金融機関の担当者も人間ですから「事業実績を定期的にレビューしてくれ、その企業の業績が良く、事業内容が理解できて取り組みやすい」「自分自身の手間がかからず、きちんと資料を提出してくれて仕事がはかどる」など自分の仕事がはかどり、コミュニケーションが取りやすい企業には良い印象を持つのではないでしょうか。

また、金融機関の担当者には単なる融資取引拡大以外にも、さまざまな「目標」があり、その目標達成のために営業活動しています。その目標は金融機関によっても異なりますが、「決済口座(売掛金回収での普通預金口座)」「定期預金」「預り資産※」「インターネットバンキング」などのサービス提供が挙げられます。また、法人のみならず役員や従業員に対しても、預金や融資(カードローン、マイカーローン、住宅ローンなど)などのサービス提供も目標の一つです。金融機関の担当者からすると、この目標達成に貢献してくれる企業は嬉しいはずです。

金融機関の提供するさまざまなサービスについては、資金調達ナビ「融資の種類と特徴(1) 民間金融機関(銀行、信金、信用金庫)の提供する融資」に解説がありますので、参考にしてください。

金融機関の営業活動は担当者制となっており、メーカーなどの「ルートセールス」のようなものです。移動や転勤がなければ、決まった担当者が窓口になります。その場合、担当者と距離が近ければ、いろいろなその金融機関の資産を活用するチャンスが生まれます。

逆に、金融機関との付き合いが下手で通り一遍の付き合いだけだと、そうしたチャンスは生まれないのではないでしょうか。「単なる商品=融資取引」だけの関係だと、担当者との距離を深めることが難しくなります。融資取引以外の付加価値を得られるチャンスを、みすみす見逃してしまっているかもしれません。

もしそうであれば、金融機関との付き合い方を改善した方が企業にとっても、そして金融機関にとっても得なはずです。

  • 預り資産とは、金融機関が顧客から預託を受けた資産のことで、代表的なものとして投資信託があり、株式や債券などの資産も含まれます。

自社の身の丈にあった金融機関選ぶ

金融機関と上手に付き合うためには、自社の規模や事業内容に適した金融機関を選びましょう。

メガバンクや地方銀行、信用金庫などの特徴を理解し、どの金融機関の融資が自社に適しているか判断することが大切です。

企業が取引する場合は、以下のような視点を持つと良いでしょう。

メガバンク
  • 融資取引は政府系融資が中心で、プロパー融資はビジネスローン(パッケージされたローン)。
  • 個別融資の対応は概ね年商20億円以上になってからが多い。
地方銀行
  • 融資取引は政府系融資、ビジネスローン。個別対応も可。
  • 信用金庫、信用組合より大きな融資額の申し込みでもスムーズ。
  • 銀行員1人当たりの担当する企業数が多く、訪問営業などしてくれることが少なく、案件の発生時に相談
信用金庫
信用組合
  • 融資取引は政府系融資、ビジネスローン。個別対応も可。
    ただし個別対応の場合の融資額は地銀より規模が小さいことが多い。
  • 地銀より銀行員が訪問営業などしてくれる回数が多い。ただし、信用金庫・信用組合は企業の規模の大小によって左右されることも多い。

実際には企業からみると「地方銀行」「信用金庫、信用組合」は、担当者との面談頻度や融資額の規模以外には、それほど差を感じることはないかもしれません。

ただし、担当者とのコミュニケーションという視点では「信用金庫、信用組合」の方が取りやすいかもしれません。例えば「信用金庫、信用組合」の場合、定期積金という商品があります。これは毎月一定額を積み立てる預金なのですが、その積立金を担当者が集金に来てくれます。そこがコミュニケーションの場になるからです。

最近では「信用金庫、信用組合」でも、効率化のために定期積金の集金を実施していないところもあります。一方は、一定の職域セールスの場の確保ため、若手育成や顧客接点の確保のために実施しているところもあります。その点は、取引時に確認してみましょう。

事業規模が大きくなっているのにも関わらず、小規模の「信用金庫、信用組合」だけと取引を行うことは、融資額によっては効率的でないケースもあります。

例えば、企業が大きくなればなるほど必要な資金は大きくなります。仮に億単位の融資が必要になる場合、小規模の「信用金庫、信用組合」では申し込みをしてから決裁までに時間がかかる場合があるからです。

よって、スタートアップでは「信用金庫、信用組合」、その後は企業の規模に応じて「地方銀行」「メガバンク」の利用を検討したほうがいいでしょう。

金融機関の種類を詳しく知りたい方は、資金調達ナビの「金融機関の種別について(1)どういう金融機関があるのか? 政府系、銀行、信金、信組って?」「金融機関の種別について(2)まだまだある金融機関! どのように使い分ければいいの?」を参考にしてください。

複数の金融機関と上手に付き合う

複数の金融機関と取引する理由

企業にとって複数の金融機関と取引する最大の理由は、資金調達のためです。資金調達は、経営を行ううえで大変重要です。資金調達ができないリスクを避けるためにも、複数の金融機関と上手にお付き合いすることをお勧めします。

仮に、1つの金融機関だけでは円滑に資金調達ができない場合、新たに取引のない新規の金融機関を探すのは、なかなか難しいです。新規の金融機関と取引を行おうとする場合には、自社の経営内容や状況、資金の必要な理由やそれを受けるための融資条件などを説明しなければなりません。

取引がなければ、融資が実行された場合に入金してもらう預金口座を開設したりする必要もありますが、企業の場合だと口座開設の審査がある場合もありますので、口座すらすぐに開設することができないなどという場合があります。

逆の立場で、仮に皆さんが金融機関だとするとどうでしょう。まったく取引がないのに相談に来るということは「今の取引先に融資を断られたんだな」と思うのが一般的ではないでしょうか。

また、既に取引があれば確認できるはずの入出金(売上代金の回収や買掛金の支払い実績など)もありませんから、まさに一から確認や資料依頼が必要となりますね。当然、時間もかかります。

新規取引の金融機関では、融資が無理だということではありませんが、この融資相談のスタート時点で既に取引がある場合とない場合では、大きく差があると言えるでしょう。

複数の金融機関を競争させるメリット

企業は、複数の金融機関と取引することが望ましいでしょう。融資取引をしない場合でも、例えば、取引先からの売上金の入金口座を2つに分け、それぞれの金融機関に入金するなどの方法で、融資が必要な時に複数の金融機関で資金調達の相談に乗ってもらいやすいでしょう。

また自社の業績や今後の見通し次第ですが、複数の金融機関と付き合うことで競争原理が働き「より有利な条件で融資を受けられる可能性」が高まりますので、この点はメリットと言えるでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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