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2022-09-20更新
黒字倒産と債務超過、危険なのはどっち?
2023/05/16
会社の倒産の原因といえば、一般的には赤字になることと考えられています。しかし、売上が上がっていて利益も出ている黒字の状態なのに、会社が倒産してしまうケースも。それが「黒字倒産」です。
黒字倒産は、なぜ起きるのでしょうか?この記事では、黒字倒産に陥る理由やチェックすべきポイントのほか、回避方法について解説します。
黒字倒産とは、商品などは売れていて損益計算書(PL)上では利益が出ているのに、資金(キャッシュ)が不足しているために、会社が倒産することです。
倒産は法律用語ではありませんが、この記事では「事業が継続できなくなった状態」として考えます。
例えば、商品を仕入れて販売する小売店で考えてみましょう。販売した時点で売上が計上され、仕入金額を売上金額が上回っていれば「黒字」です。
とはいえ、販売相手が法人などの場合、代金は当日の現金払いではなく、翌月末にまとめて銀行振込となるケースも。売上金が入ってくるまでの期間に商品の仕入代金を支払う必要があり、さらに金融機関への返済もあって、手元の資金が足りなくなったらどうなるでしょうか?
これが支払いや返済が滞り、次月の仕入れもできなくなる「資金ショート」の状態です。資金ショートの結果として、黒字が出ているのに倒産に陥るのです。
黒字倒産は、資金が不足して事業が継続できなくなること。それに対して「債務超過」とは、会社のすべての資産(資金や在庫、固定資産など)より債務のほうが多く、貸借対照表(バランスシート)上では純資産がマイナスの財務状態ことをいいます。
債務超過は良好な経営状態ではないものの、支払いや返済のための資金があれば、事業を続けることは可能です。実際に、債務超過となっているスモールビジネス事業者は少なくないと考えられます。財務面としては、資金ショートが最も緊急性かつ危険性が高く、続いて赤字、債務超過の順です。
債務超過についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
債務超過とは?意味や貸借対照表の見方、解消法をわかりやすく解説
黒字倒産について理解する際に、混同しがちな用語があります。ここでは、黒字倒産に関連した用語について解説します。
黒字倒産について理解するうえでまず押さえておきたいのが「資金」です。資金とは、すぐに支払いなどに利用できる現金や当座預金、普通預金などを指します。いつ支出があり、いつどんな入金があるかということを「資金の流れ」といいます。
一方、不動産や貸付金など、現金化に時間を要するものは「資産」です。
「黒字」は、費用より収益が多く、利益が出ている状態です。一方、「赤字」は収益より費用のほうが多く、年間・月間単位で利益が出ていない状態を指します。
しかし、黒字倒産のように、利益が出ていても会社が倒産することは起こり得るので注意が必要です。
事業者が黒字倒産になったり、黒字倒産に近い状況になったりするまで気づかないのはなぜなのでしょうか。ここでは、事業者が黒字倒産に陥る理由について解説します。
黒字倒産に陥る理由のひとつに、掛取引が多いことが挙げられます。掛取引とは、商品やサービスを提供した後、後払いで代金を支払う取引方法です。
取引条件によって異なるものの、掛取引において実際に売掛金が手元に入るのは、1か月以上先です。すると、損益計算書上の売上と手元資金の間に差が生じます。売掛金の回収期間が長ければ長いほど、黒字倒産のリスクは高まるのです。
在庫管理が不十分で過剰在庫が生じることも、黒字倒産の原因です。会計上、在庫は資産として扱われ、売上につながる際に仕入費が計上されるため、在庫を増やすことで帳簿上の利益が増える場合はあります。しかし、過剰在庫は在庫の管理費も上昇する上、実際の利益にはならず、無駄な買い物をしていることになるためリスクが高まります。営業利益が仮に黒字であっても、営業キャッシュフローとしてはマイナスになるため、黒字倒産に陥る可能性があるのです。
在庫状況が健全かどうかを知る目安のひとつに、「交差比率」があります。交差比率は「粗利率×在庫回転率(ある期間内に在庫が入れ替わった回数を表す指標)」で求められるもので、100%を下回ると要注意です。粗利率が高くても在庫回転率が低いと、黒字倒産のリスクが高まります。
本業が多忙なスモールビジネス事業者は、資金の流れを把握する時間を確保しにくかったり、収支管理にあまり関心がなかったりする傾向があります。そのため、利益は出ているので資金が不十分になっている状況に気づかず、資金が足りなくなって事業を続けられないことになるのです。
また、スモールビジネス事業者は、順調に利益が得られていることで気が大きくなって経費を使いすぎ、その支払いがかさんで資金繰りが悪化するケースもあるようです。
黒字倒産を防ぐには、黒字倒産につながりそうなサインにいち早く気づき、対応する必要があります。ここでは、日頃からチェックしておきたいポイントについて見ていきましょう。
黒字倒産を避けるために最も重要な書類が「資金繰り表」です。資金繰り表とは、経営におけるお金の流れを表にしたもの。当月に入ってくるお金や出ていくお金などを書き込むことで、資金の流れが明らかになり、資金に余裕があるかどうかを知ることができます。
黒字倒産は資金不足が引き金となります。それを防ぐために、資金を管理することが大切なので、資金繰り表のチェックが必要となるのです。
資金繰りについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
資金繰りとは?会社の資金繰りが悪化する原因や資金繰り表の作成方法
ちなみに、資金の増減をチェックするための書類に、キャッシュフロー計算書があります。ですが、金融機関からキャッシュフロー計算書の提出を求められることは多くないので、スモールビジネス事業者が作成することはあまりありません。それよりも、資金繰り表の作成を優先したほうがいいでしょう。
貸借対照表は、企業の財務状況を示す書類です。貸借対照表における純資産の中で、自己資本がどの程度あるかを「自己資本比率」で確認します。
自己資本比率は、経営の安定性をチェックするための指標です。自己資本比率は「純資産÷(純資産+負債)×100」で求められ、自己資本比率が高いほど、黒字倒産の確率は低くなるといえます。
自己資本についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
損益計算書は、会社の「収益」「費用」「利益」の3つをまとめた書類です。利益が出ていても資金不足で事業が継続できなくなるのが黒字倒産ですが、利益が減って資金に余裕がなくなっていくこともあるので、損益計算書で収支の状況をチェックすることをおすすめします。
「売上が増えているのに支出が多いため、利益が増えていない」といった状況がないかを確認しましょう。
ただ、利益が出ていても資金不足による黒字倒産は起こり得ます。損益計算書で利益が出ているからといって安心せず、資金繰り表や貸借対照表のチェックを重視してください。
せっかく事業の利益が出ているのに黒字倒産してしまうのは、絶対に避けたいところです。最後に、黒字倒産を回避する方法を押さえておきましょう。
資金ショートによる黒字倒産に陥らないようにするためには、「いつ何の支払いがどれくらい発生するか」「いつ何の入金があるか」をしっかり把握する必要があります。
そこで、資金繰り表を作成しましょう。まずは過去12か月分の資金繰り実績表を作成し、過去の資金の増減の状態などについて確認します。次に、この先12か月分の資金繰り予定表を作成して、資金の増減などの予測を確認して、その対応策などについて検討するのです。
先々の入出金についてもまえもって把握し、資金不足が生じないように管理してください。
掛取引によって、仕入代金や人件費の支払いと、売掛金の入金とのタイムラグがあるのが、黒字倒産の原因のひとつです。そこで、売掛金入金までの回収期間を短くすれば、黒字倒産は避けやすくなります。
売掛金回収については入金時期を早めてもらったり、一部前払いしてもらったりするなど、取引条件を交渉するようにしてください。
仕入れた商品や材料などの代金を支払うまでの期間を「仕入債務回転期間」といいます。この仕入債務回転期間を長くしてもらえばもらうほど、資金繰りは改善し、黒字倒産のリスクが減ります。
仕入先に分割支払いにしてもらったり、一部の支払いを遅らせてもらったりできないかを依頼してみるのもいいでしょう。
過剰な在庫は資金繰りに影響するため、在庫は必要な範囲にとどめることを意識してください。
在庫を過剰に持つと、売上金が入ってくるまでに時間がかかるうえに、管理のための固定費もかかるため、資金繰りに悪影響が生じやすくなります。
資金不足のときに限って、売掛金の入金が遅れたり、支払いが必要な費用が発生したりするなど、経営における不測の事態が起こることは往々にしてあります。このようなときは、黒字倒産に備えるため、資金調達の手段を確保しておかなければなりません。
ただし、金融機関から融資を受けるには、必要書類を準備して審査を受けなければなりません。すぐに審査が通るわけではないので、資金ショートしてから相談していては遅いといえます。
そこで、先を見据えた資金繰り予定表を作って、資金不足が起きそうなタイミングを事前に把握し、金融機関に対して「この時期に融資を受けたい」と伝えておきましょう。そうすることで、融資をスムースに受けられるうえ、資金に余裕ができるので、想定外の突発的な資金不足にも対応しやすくなります。
資金調達の手段については、こちらで検索してみてください。
資金は、月商の1か月分は確保しておきたいところ。売上急減や入金遅れの場合、最低でも月商1か月程度の資金がないと、仕入先への支払いなどに対応しにくくなるからです。理想は月商3か月分程度の資金が確保されていること。そのためにまえもって金融機関から借入することも検討してみてください。
借入についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
黒字倒産回避のために必要なのは、ある程度の資金の確保です。資金確保のため、事業には無関係な設備や倉庫、不動産などの資産は売却も検討しましょう。設備や倉庫はメンテナンス費用などもかかり、利益にはつながらないのにお金が出ていくので、資金不足を加速させることにもつながります。
金融機関への条件変更については早めに、なおかつ具体的な改善計画を提示すれば、支払猶予やリスケジュールに対応してもらうことも不可能ではありません。
原則として、リスケジュールは元金返済棚上げとして、金利のみの支払いにします。もちろん、一定額の返済をすることも可能です。仮に当月の返済金額が20万円だとしたら、とりあえず5万円だけ返済したり、金利のみを返済したりするなど返済可能額を支払いつつ、リスケジュールを依頼します。リスケジュールしてもらう間は、事業の立て直しや経営者の給料カット、仕入先への支払条件の交渉などを進め、通常の返済に戻していきましょう。
「今月末の支払いが厳しい」と発覚した段階で相談するのではなく、資金繰りが苦しくなりそうな月の少なくとも3か月前には相談することが重要です。
なお、リスケジュールは最終手段といえる方法です。必ず顧問税理士や専門家などのアドバイスを受けながら慎重に進めてください。
リスケジュールについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
黒字倒産は、さまざまな原因から起きる資金不足が引き金になります。黒字倒産を回避するには、経営におけるお金の流れをしっかりとチェックし、お金の流れを悪くしているものがあれば改善するのが重要です。
黒字倒産回避のポイントは、資金繰りが苦しくなってからではなく、経営や資金繰りが順調なときに、金融機関と交渉しておくこと。金融機関は優良な取引先とみなして、交渉のテーブルについてくれます。債務超過や赤字の財務状況下で交渉しても、要注意取引先とみなされて返済条件が厳しくなったり、場合によっては取引停止を言い渡されたりする可能性もあるので、注意してください。
債務超過や赤字はできるだけ避けなければなりませんが、最も危険なのは資金ショートです。資金ショートは、黒字であっても倒産につながりやすくなります。スモールビジネス事業者の経営において、資金ショートに陥らないようにお金の流れを管理することは、かなり優先順位が高いことなのです。
事業継続のためには「無借金経営」にこだわらず、資金確保のための借入も検討しましょう。
借入に必要な基礎知識についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
財務・資金調達コンサルタント。株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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