自治体の中小企業支援の活用
2022-04-19更新
2023/05/25
2022年12月23日に経済産業省および金融庁より「経営者保証改革プログラム」が公表されました。本プログラムは、経営者保証なしの融資を強く促進するために策定されたプログラムです。本プログラムでは、多くの施策が実施されますが、今回は、特に重要と思われる施策について解説いたします。
経営者保証(経営者に対する個人連帯保証)は経営の規律付けや信用補完として資金調達の円滑化などのメリットがあるといわれていますが、その一方で、スタートアップ事業者や経営者による思い切った事業展開を躊躇させ、事業承継や早期の事業再生を阻害する要因となっているなど様々な課題があるともいわれています。
このような背景を受けて、平成26年(2014年)2月より、政府、行政等は経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めた「経営者保証に関するガイドライン」の運用を開始し、活用促進を推進してきましたが、現状、経営者保証に依存しない融資が浸透しているとは言い難い状況です。
このような状況を打開するためにも、政府としては、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるために、「経営者保証改革プログラム」を公表しました。
「経営者保証改革プログラム」は、「スタートアップ・創業」「民間金融機関による融資」「信用保証付融資」「中小企業のガバナンス」の4分野で構成されています。以下、この4分野について簡潔に解説いたします。
これから創業する方やスタートアップ時期の法人などが融資申請をすると、個人連帯保証を要求されるケースがあります。「経営者保証を提供しなくては融資を受けることが困難である」という慣行が創業意欲を阻害しているといわれており、そうした状況を打開するために、本プログラムにおいて様々な施策が実施されます。
主な施策としては、以下の通りです。
主な施策
メインとなるのは、①の「経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設」(スタートアップ創出促進保証)です(2023年3月15日開始)。本保証制度は、創業5年未満の事業者を対象に、保証限度額3,500万円、保証料+0.2%の制度となっています。本制度を利用できれば経営者が個人連帯保証をしなくても融資を受けることができるようになります。
スタートアップ創出促進保証の概要は以下の通りです。
「スタートアップ創出促進保証」制度概要
内容 | |
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保証対象者 |
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保証限度額 | 3,500万円 |
保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 1年以内(一定の条件を満たす場合には3年以内) |
金利 | 金融機関所定 |
保証料率 | 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せした保証料率
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担保・保証人 | 不要 |
その他 |
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取扱期間 | 2023年3月中に保証取扱いを開始予定 |
なお、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」(無担保・無保証人、融資限度額3,000万円)を併せると6,500万円の無担保・無保証人の限度額となります。新創業融資制度の対象者は、「事業開始後税務申告を2期終えていない方」となっていますが、「事業開始後税務申告を2期終えた方」に対しては、②の「経営者保証免除特例制度」があり、2023年2月より要件が緩和されています。
「日本政策金融公庫 経営者保証免除特例制度」制度概要
内容 | |
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対象者 |
次の1.から3.までのいずれかの要件を満たしており、経営状況等から借入返済が可能と見込まれる法人の方
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利率(年) | 保証免除したご融資は、適用する融資制度の利率に0.2%が上乗せされます。 |
担保・保証人 | 融資にあたり、経営者の保証が免除されます。担保の提供の有無は、申込みの際に選択できます。 |
図表の「新規開業後おおむね5年以内の技術・ノウハウ等に新規性等がみられる方は、(1)および(2)の要件を満たしていればご利用いただけます。」というところが、要件緩和されている箇所になります。
③は、2022年10月以降、商工組合中央金庫においては、スタートアップ向けの融資において、原則として経営者保証を廃止しています。
④の「民間金融機関に対し、経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資を促進する旨を要請」については、「経営者保証改革プログラム(2)」をご参考にしてください。
民間金融機関に対しては、経営者保証を求める際の手続きを厳格化することで安易に経営者保証に依存しないように、また、事業者及び保証人が十分に納得できように、金融庁における民間金融機関に対する「監督指針」が改正され、2023年4月1日から適用されます。さらに、金融機関に対して「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成及び公表の要請も発せられています。
主な施策は以下の通りです。
特に重要なのは、「(1)金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化」です。2023年4月1日より、金融機関が経営者に個人保証を求める場合は、保証契約の必要性などについて、個別具体的に説明をすることが求められます。詳細は、以下の記事にて確認してください。
また、「(3)経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討(事業成長担保権)」は、事業全体を担保として評価し、従来のような不動産担保や経営者保証に依存しない新たな手法と言われています。2023年の通常国会で法案が提出され、2~3年後の運用が開始される予定となっています。
信用保証制度は、経営者の取組次第で達成可能な要件等をクリアできれば、保証料の上乗せ負担等により経営者保証の解除を選択できる制度が2024年4月以降に創設される予定です。
主な施策は以下の通りです。
等
特に重要なのは、「(1)信用保証制度における経営者保証の提供を事業者が選択できる環境の整備」における施策です。
2024年4月に、①の「経営者保証の解除を選択できる信用保証制度」及び③の「プロパー借換保証」が創設される予定です。「プロパー借換保証」とは、プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り借換を例外的に認める保証制度です。これらの制度が実施されれば、無保証人による支援がさらに推進されると思われます。
また、②の流動資産担保融資(ABL)保証においては、2024年4月より、経営者保証が廃止されることになりました。
次に、(2)①「経営者保証を解除することができる現行制度の活用」要請については、令和4年12月23日に金融機関等に発せられた「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」において、現行制度などによる「積極的に個人保証を不要とする取扱いの活用」が要請されています。(参考:経営者保証改革プログラム(2))
なお、現時点においては、「経営者保証を不要とする保証」(金融機関連携型、財務要件型など)があります。
本プログラムにおいて、「スタートアップ・創業」「民間金融機関による融資」「信用保証付融資」の分野にて、様々な施策が実施されますが、中小企業者側においても経営者保証を解除できるような社内体制(ガバナンス体制)を整える必要があります。そのための支援策も実施されます。
主な施策は以下の通りです。
支援策
ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成【22年12月】
特に注目したいのは、①の「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」の作成、及び②の「収益力改善支援に関する実務指針」の策定になります。
2022年12月に中小企業収益力改善支援研究会より、「収益力改善支援に関する実務指針」が公表されました。その中で「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」も公表され、ガバナンス体制を整える基準などが“見える化”されたといえるでしょう。
詳細については、「経営者保証改革プログラム~経営者保証改革プログラムを利用するには?~」をご確認ください。
株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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