経営者保証が不要の融資を更に促進! 「経営者保証改革プログラム」 ~経営者保証改革プログラムとは?~

2023/05/25

2022年12月23日に経済産業省および金融庁より「経営者保証改革プログラム」が公表されました。本プログラムは、経営者保証なしの融資を強く促進するために策定されたプログラムです。本プログラムでは、多くの施策が実施されますが、今回は、特に重要と思われる施策について解説いたします。

経営者保証改革プログラムとは?策定の背景・狙いとは?

経営者保証(経営者に対する個人連帯保証)は経営の規律付けや信用補完として資金調達の円滑化などのメリットがあるといわれていますが、その一方で、スタートアップ事業者や経営者による思い切った事業展開を躊躇させ、事業承継や早期の事業再生を阻害する要因となっているなど様々な課題があるともいわれています。

このような背景を受けて、平成26年(2014年)2月より、政府、行政等は経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めた「経営者保証に関するガイドライン」の運用を開始し、活用促進を推進してきましたが、現状、経営者保証に依存しない融資が浸透しているとは言い難い状況です。

このような状況を打開するためにも、政府としては、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるために、「経営者保証改革プログラム」を公表しました。

「経営者保証改革プログラム」は、「スタートアップ・創業」「民間金融機関による融資」「信用保証付融資」「中小企業のガバナンス」の4分野で構成されています。以下、この4分野について簡潔に解説いたします。

「スタートアップ創出促進保証」~スタートアップ・創業関連~

これから創業する方やスタートアップ時期の法人などが融資申請をすると、個人連帯保証を要求されるケースがあります。「経営者保証を提供しなくては融資を受けることが困難である」という慣行が創業意欲を阻害しているといわれており、そうした状況を打開するために、本プログラムにおいて様々な施策が実施されます。

主な施策としては、以下の通りです。

主な施策

  • スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(保証割合:100%/保証上限額:3,500万円/無担保)【相談受付開始:23年2月、制度開始:23年3月】
    • (※)
      創業関連保証の利用実績:11,153件(2021年度:法人)
  • 日本公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和【23年2月~】
    • (※)
      創業から5年以内の者に対する経営保証を求めない融資の実績:約1.6万件(2021年度)
  • 商工中金のスタートアップ向け融資における経営者保証の原則廃止【22年10月~】
    • (※)
      スタートアップ向け融資の実績:202件(2021年度)
  • 民間金融機関に対し、経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資を促進する旨を要請【年内】

メインとなるのは、①の「経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設」(スタートアップ創出促進保証)です(2023年3月15日開始)。本保証制度は、創業5年未満の事業者を対象に、保証限度額3,500万円、保証料+0.2%の制度となっています。本制度を利用できれば経営者が個人連帯保証をしなくても融資を受けることができるようになります。

スタートアップ創出促進保証の概要は以下の通りです。

「スタートアップ創出促進保証」制度概要

内容
保証対象者
  • 創業予定者(これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者)
  • 分社化予定者(中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者)
  • 創業後5年未満の法人
  • 分社化後5年未満の法人
  • 創業後5年未満の法人成り企業
保証限度額 3,500万円
保証期間 10年以内
据置期間 1年以内(一定の条件を満たす場合には3年以内)
金利 金融機関所定
保証料率 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せした保証料率
  • 保証料率は各信用保証協会にお問い合わせ下さい
担保・保証人 不要
その他
  • 創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)の提出が必要
  • 保証申込受付時点において税務申告1期未終了の創業者にあっては創業資金総額の1/10以上の自己資金を有していることを要する
  • 本制度による信用保証付融資を受けた方は、原則として会社を設立して3年目および5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」に基づいた確認および助言を受けることを要する
取扱期間 2023年3月中に保証取扱いを開始予定

なお、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」(無担保・無保証人、融資限度額3,000万円)を併せると6,500万円の無担保・無保証人の限度額となります。新創業融資制度の対象者は、「事業開始後税務申告を2期終えていない方」となっていますが、「事業開始後税務申告を2期終えた方」に対しては、②の「経営者保証免除特例制度」があり、2023年2月より要件が緩和されています。

「日本政策金融公庫 経営者保証免除特例制度」制度概要

内容
対象者

次の1.から3.までのいずれかの要件を満たしており、経営状況等から借入返済が可能と見込まれる法人の方

  • 1.
    次の(1)から(3)までの全ての要件を満たす方。ただし、「物的担保の提供をいただく場合」は(1)の要件を、「新規開業後おおむね5年以内の技術・ノウハウ等に新規性等がみられる方」は、(1)および(2)の要件を満たしていればご利用いただけます。
    • (1)
      法人と代表者の方の一体性の解消が一定程度図られていることについて、公庫において確認ができること。
    • (2)
      税務申告を2期以上実施していること。また、公庫からの普通貸付または生活衛生貸付の借入がある場合は、取引状況に問題がないこと。
    • (3)
      減価償却前経常利益が直近2期連続赤字ではなく、かつ、直近の決算で債務超過ではないこと。
  • 2.
    取引金融機関において代表者保証の免除に関する協調対応が見込める方または取引金融機関から代表者保証を免除された借入の残高のある方
  • 3.
    事業承継・集約・活性化支援資金または生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金を適用してご融資を受けられる方
利率(年) 保証免除したご融資は、適用する融資制度の利率に0.2%が上乗せされます。
担保・保証人 融資にあたり、経営者の保証が免除されます。担保の提供の有無は、申込みの際に選択できます。

図表の「新規開業後おおむね5年以内の技術・ノウハウ等に新規性等がみられる方は、(1)および(2)の要件を満たしていればご利用いただけます。」というところが、要件緩和されている箇所になります。

③は、2022年10月以降、商工組合中央金庫においては、スタートアップ向けの融資において、原則として経営者保証を廃止しています。

④の「民間金融機関に対し、経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資を促進する旨を要請」については、「経営者保証改革プログラム(2)」をご参考にしてください。

「民間金融機関による経営者保証なしの融資」について

民間金融機関に対しては、経営者保証を求める際の手続きを厳格化することで安易に経営者保証に依存しないように、また、事業者及び保証人が十分に納得できように、金融庁における民間金融機関に対する「監督指針」が改正され、2023年4月1日から適用されます。さらに、金融機関に対して「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成及び公表の要請も発せられています。

主な施策は以下の通りです。

  • (1)
    金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化
    • 金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に以下の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。【23年4月~】
      • どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
      • どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
    • ①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。【23年9月期 実績報告分より】
      • (※)
        「無保証融資件数」+「有保証融資で、適切な説明を行い、記録した件数」=100%を目指す
    • 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」などの相談を受け付ける。【23年4月~】
    • 状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施
  • (2)
    経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革(取組方針の公表促進、現場への周知徹底)
    • 金融機関に対し、「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を経営トップを交え検討・作成し、公表するよう金融担当大臣より要請
    • 地域金融機関の営業現場の担当者も含め、監督指針改正に伴う新しい運用や経営者保証に依存しない融資慣行の確立の重要性等を十分に理解してもらうべく、金融機関・事業者向けの説明会を全国で実施。【23年1月~】
    • 金融機関の有効な取組みを取りまとめた「組織的事例集」の更なる拡充及び横展開を実施。
  • (3)
    経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討(事業成長担保権(仮))
    • 金融機関が、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくするよう、事業全体を担保に金融機関から資金調達できる制度の早期実現に向けた議論を進めていく。【22年11月~】

特に重要なのは、「(1)金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化」です。2023年4月1日より、金融機関が経営者に個人保証を求める場合は、保証契約の必要性などについて、個別具体的に説明をすることが求められます。詳細は、以下の記事にて確認してください。

また、「(3)経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討(事業成長担保権)」は、事業全体を担保として評価し、従来のような不動産担保や経営者保証に依存しない新たな手法と言われています。2023年の通常国会で法案が提出され、2~3年後の運用が開始される予定となっています。

「経営者保証不要の信用保証付融資」について

信用保証制度は、経営者の取組次第で達成可能な要件等をクリアできれば、保証料の上乗せ負担等により経営者保証の解除を選択できる制度が2024年4月以降に創設される予定です。

主な施策は以下の通りです。

  • (1)
    信用保証制度における経営者保証の提供を事業者が選択できる環境の整備
    • 経営者の取組次第で達成可能な要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること 等)を充足すれば、保証料の上乗せ負担(事業者の経営状態に応じて上乗せ負担は変動)により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設【24年4月~】
    • 流動資産(売掛債権、棚卸資産)を担保とする融資(ABL)に対する信用保証制度において、経営者保証の徴求を廃止【24年4月~】
    • 信用収縮の防止や民間における取組浸透を目的に、プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設【24年4月~】
    • 上記施策の効果検証を踏まえた更なる取組拡大の検討【順次】

  • (2)
    経営者保証ガイドラインの要件を充足する場合の経営者保証解除の徹底
    • 金融機関に対し、信用保証付融資を行う場合には、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう経済産業大臣・金融担当大臣から要請。【年内】
    • 保証付融資が原則として経営者保証が必要であるかのような誤解が生じない広報の展開。【年内】

特に重要なのは、「(1)信用保証制度における経営者保証の提供を事業者が選択できる環境の整備」における施策です。

2024年4月に、①の「経営者保証の解除を選択できる信用保証制度」及び③の「プロパー借換保証」が創設される予定です。「プロパー借換保証」とは、プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り借換を例外的に認める保証制度です。これらの制度が実施されれば、無保証人による支援がさらに推進されると思われます。

また、②の流動資産担保融資(ABL)保証においては、2024年4月より、経営者保証が廃止されることになりました。

次に、(2)①「経営者保証を解除することができる現行制度の活用」要請については、令和4年12月23日に金融機関等に発せられた「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」において、現行制度などによる「積極的に個人保証を不要とする取扱いの活用」が要請されています。(参考:経営者保証改革プログラム(2))

なお、現時点においては、「経営者保証を不要とする保証」(金融機関連携型、財務要件型など)があります。

経営者保証を外すために必要なこと ~中小企業のガバナンス整備~

本プログラムにおいて、「スタートアップ・創業」「民間金融機関による融資」「信用保証付融資」の分野にて、様々な施策が実施されますが、中小企業者側においても経営者保証を解除できるような社内体制(ガバナンス体制)を整える必要があります。そのための支援策も実施されます。

主な施策は以下の通りです。

支援策

ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成【22年12月】

  • 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定【22年12月】、収益力改善やガバナンス体制の整備を目的とする支援策(経営改善計画策定支援・早期経営改善計画策定支援)における支援機関の遵守促進【23年4月~】
    • (※)
      年間計画策定支援件数:2,821件(2021年度)
  • 中小企業活性化協議会における収益力改善支援にガバナンス体制整備支援を追加し、それに対応するため体制を拡充【23年4月~】 等

特に注目したいのは、①の「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」の作成、及び②の「収益力改善支援に関する実務指針」の策定になります。

2022年12月に中小企業収益力改善支援研究会より、「収益力改善支援に関する実務指針」が公表されました。その中で「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」も公表され、ガバナンス体制を整える基準などが“見える化”されたといえるでしょう。

詳細については、「経営者保証改革プログラム~経営者保証改革プログラムを利用するには?~」をご確認ください。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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